『恋の話がしたい』の『Re:hello』が好きすぎる|BL漫画感想
感動するBL漫画っていろいろある。涙が出て止まらないBL、読み終わった後に何か学んだ気持ちになるBL。
BL作家ヤマシタトモコの作品は、涙が出るわけじゃないし、教訓があるわけじゃない。感動ものって言われるとちょっと違う気がする。
でも、心臓から何かがすごい勢いであふれ出るような、ぐわぁんと大きな波が生まれるような。そんな読後感が生まれる漫画だと思う。
ヤマシタトモコのBLの中でも、2008年刊行の『恋の話がしたい』に収録されている『Re:hello』という短編。私はこれが一番好きだ。
Re:helloのあらすじ
女子高生の「私」にはおじさんがいる。おじさんはゲイで、時々行きずりの相手と寝るが、恋人はいない。
一人暮らしのおじさんの家には2対の食器。
違う銘柄のたばこの買い置き。
誰かが家のチャイムを鳴らすと、おじさんは何があっても自分で出る。
おじさんは、「誰か」がくるのを、ずっと待っている。
「私」はおじさんの過去に興味をいただく。窓辺には折り畳みですらない旧式の携帯。
携帯のパスを解除すると、そこにはおじさんと「誰か」のたわいもないメールが残っていた。
メールは4年前に終わり、未送信トレイには13通のメール。
そこには、自分の元を去ってしまった誰かへの思いがつづられていた。
この短編ではおじさんが思いを寄せる「誰か」の姿は、最初から最後まで描かれない。
攻めと受けが必ずセットになるBL漫画では 珍しいことだと思う。
でも、姿を見せないからこそ、おじさんが抱えた空白が、読者である私にも痛いほど鮮烈に伝わる。
4年前におじさんに何があったのかは、メールから断片的にしかわからない。
メールの相手は女と結婚して、おじさんとの関係は終わった。それだけしかわからない。
そこには文字で書く以上のドラマがあっただろうけど、私には明らかにされない。
ただ、1つわかるのは、おじさんがどんな気持ちでメールを書いたか。
おじさんの指は、たぶんどうしようもなく震えている。
震えた指で、一個一個文字を打つ。
時には平常を装って話しかける。時には深夜2時の衝動をぶちまける。
何回も推敲して送信ボタンを押そうとして、結局おじさんのメールは未送信トレイに沈んでいく。
1人の男が、誰かを思う純粋な気持ち。
姪である「私」の視界を通してメールを読者が読み終えたとき、大きな波のような感情が生まれる。
これを感動というのかわからない。わからないけれど、これこそがBLが持つ切なさを凝縮したものじゃないかと思う。
攻めも受けも出てこないからこそ、描くことができた純粋な思い。
これをぜひ他の人も感じてほしいと思う